『これからの正義の話をしよう』を『進撃の巨人』で解説する【哲学】

こんにちは、taikiです。

最近完結した人気漫画『進撃の巨人』を皆さん読んでいました??

日本漫画史に名を刻むような作品でしたので、読んでいない方はぜひ手にとって見てください。

人それぞれにいろんな楽しみ方や解釈がありますが、私の解釈としては、正義とは何かをいろんな角度から描いた哲学的な漫画だったのかなぁという気がしました。

一言でいってしまえば、マイケル・サンデルの『これからの正義の話をしよう』です。

たぶん、作者の諫山創先生はマイケル・サンデルがめちゃくちゃ好きでしょう。

だからこそ、名著『これからの正義の話をしよう』を『進撃の巨人』で解説できればと思います。

ザックリ理解する『これからの正義の話をしよう』

『これからの正義の話をしよう』概要

マイケル・サンデルといえばハーバード大学の教授で、哲学者として有名です。

白熱教室とトロッコ問題で有名になったので名前や話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

トロッコ問題とは

こちらが有名なトロッコ問題、「5人を助けるために、1人犠牲にすることは正義か」という議論です。


この話を聞くと多くの人が1人犠牲にするのは仕方ないと答えます。

しかし、前提を少し変えて、1人の人間を崖から突き落として5人の命を救おうとすると「それはマズい」と言うでしょう。

助かる生命の数が同じでも選択は大きく変わってしまうのです。

正義とは意外と不安定なのです。

正義の前提にあるのは3つの価値観

マイケル・サンデルは正義とは3つの側面があると本を通じて語っています。

  • 幸福の最大化
  • 自由の尊重
  • 美徳の促進

この3つをあらゆる角度から説明するために、大量のケーススタディが掲載されているというのが本書です。逆に言えば、この3つの概念を頭に入れた上で、『これからの正義の話をしよう』や『白熱教室』を読んでみると内容がスッと頭に入ってきます。

乱暴に言ってしまうと1つ目の「幸福の最大化」は多数決、トロッコ問題1は典型的な「幸福の最大化」です。

5人死ぬよりも1人しか死なないほうが全体の幸福が大きい。

2つ目の「自由の尊重」は個人の自由を侵害しないことです。

トロッコ問題2の突き落とされる人には、自分の意思が入っておりません。自らの生命を捧げるという意思の元での行動であればOKですが、一方的に自分の生命が奪われることは「自由の尊重」的にはアウトです。

3つ目の「美徳の促進」は道徳や理念のような行動規範になるような共通善。宗教や武士道といった価値観です。

「それは人としてやっちゃマズいでしょ」的な。

この3つの判断軸からあーでもないこーでもないと議論しているのが、『これからの正義の話をしよう』とわかっていただけたでしょうか。

この3つの判断軸を『進撃の巨人』で読み解いてみましょう。

進撃の巨人で読み解く正義

ここからはネタバレがあるので、まだ読んでいない方でネタバレが嫌な方はお引取りください。

 
 
 
 
 
 
 

ストーリーを忘れちゃった人のために

人類は突如出現した「巨人」によって食い尽くされそうになります。一部の人達が、壁を築くことによって巨人の脅威を逃れました。

その壁の中の人類が巨人と戦い自由を獲得していく話です。

『進撃の巨人』1巻より(C)諫山創/講談社

『進撃の巨人』1巻より(C)諫山創/講談社

序盤は壁の中の人類が巨人と闘う話。

中盤からは、壁の外に出て巨人の正体を突き止める話です。

幸福の最大化の正義

進撃の巨人の序盤は絶望的な展開です。壁の中の人類が巨人たちに襲撃され、ひたすらなぶり殺されます。

そこで問われる正義はひたすらトロッコ問題。

↓1人犠牲にして2人を救うことの苦悩。

『進撃の巨人』1巻より(C)諫山創/講談社

↓街を一つ犠牲にして、残りの人類を救うことの苦悩・議論

『進撃の巨人』1巻より(C)諫山創/講談社

↓強欲な1人を殺して、他の住民を助ける正義

『進撃の巨人』2巻より(C)諫山創/講談社

「幸福の最大化」を正義と掲げても、目の前の犠牲に押しつぶされそうになります。

誰だって犠牲者は出したくないし、それを自分の手を汚してやるのは嫌なものです。

「幸福の最大化」は少数派の犠牲の上になりたっているのです。

中盤からは立場が入れ替わって、「壁の中の人類(エルディア人)」vs「壁の外の人類(全人類)」の構図になります。

壁外人類はパラディ島(壁の中)に侵攻してエルディア人を殺害し、エルディア人の恐怖を排除しようと考えます。

少数民族のエルディア人を犠牲にするけど人類全体の「幸福は最大化」される。人類全体を巻き込んだ大規模なトロッコ問題です。

『進撃の巨人』25巻より(C)諫山創/講談社

人類の「幸福の最大化」という大義名分があれば、少数民族虐殺の痛みを忘れることができます。

この後、ストーリーの中ではエルディア人を殺さずに人類全体の「幸福の最大化」を高める「安楽死計画」が提案され、「幸福の最大化」の正義を巡って展開していきます。

『進撃の巨人』29巻より(C)諫山創/講談社

詳しく知りたい方は本編を読んでください。

自由の尊重の正義

主人公エレン・イェーガーは「自由の尊重」を重視します。

『進撃の巨人』18巻より(C)諫山創/講談社

何よりも行動・思想が制限されることを嫌います。

『進撃の巨人』より(C)諫山創/講談社

そんなエレンが壁の壁外調査を生業にする調査兵団に惹かれて合流するのは必然です。

その調査兵団のリヴァイ兵長も「自由の尊重」は大事にしていました。極限に追い込まれたエレンに対しても意思決定を任せます。

『進撃の巨人』より(C)諫山創/講談社

これが調査兵団の根底にある正義なのでしょう。

自分で決める自由があることこそが正義。

そして、ストーリー終盤で主人公のエレンは仲間たちに、「世界を守る自由」と「エレンに従う自由」を突きつけます。

もはや「自由の尊重」による拷問!

『進撃の巨人』32巻(C)諫山創/講談社

エレンにとって自分で決裁権をもつことが最高の正義なのでしょう。個人主義の成れの果て。

それはそれでわかる気がするけど。

美徳の促進の正義

エレンは「地鳴らし」を実行しました。

「地鳴らし」とは超大型巨人で世の中を踏みつけまくって、人類を文明社会ごとリセットしちゃおうという究極奥義です。

現代で言えば、この世の核ミサイルをぜんぶ打つぐらいのレベル感に近いでしょうか。

『進撃の巨人』33巻より(C)諫山創/講談社

当然、関係ない人達を大量に巻き込むことになるので、道徳的には許容出来ません。

ここで美徳の促進の正義が発動します。

↓地鳴らし(≒大量虐殺)はマズいと考えるアルミン達

『進撃の巨人』33巻より(C)諫山創/講談社

『進撃の巨人』33巻より(C)諫山創/講談社

「自分達が助かるためにパラディ島以外の人類を皆殺しにする」というエレンのぶっ飛んだアイデアは、アルミンやハンジの美徳が許しませんでした。

さすがにそれは超えちゃいけない一線だと。

(誰かの)「幸福の最大化」、「自由の尊重」が守られたとしてもそれ以上に、守らなきゃいけない美徳がある。

ここでは美徳による正義が勝りました。

「幸福の最大化」と「自由意志の尊重」との対立の中で進んできたストーリーですが、最終局面になって、美徳が出てくるわけです。

もちろん、「自由の尊重」こそが正義のエレン・イェーガーにも「美徳の促進」はありました。

実際に、苦悩しています。

『進撃の巨人』(C)諫山創/講談社

その中で、まさかの結末を迎えたことは読まれた皆さんがご存知の通りですね。

まとめ:相手の正義を理解すれば人間関係は良好になる

『進撃の巨人』27巻より(C)諫山創/講談社


この記事を書きながら、『進撃の巨人』とは哲学的な漫画だったんだなぁとあらためて実感しました。

今回取り上げた『これからの正義の話をしよう』はビジネス書から少し離れた本ですが、ビジネスに役立つ要素はたくさんあります。

組織の中で人を動かすには、相手の正義や価値観といった根本を理解しないことには始まりません。

相手の正義や価値観に論理的な正しさが加わってはじめて納得して、物事が動きはじめます。

ある人間を理解することは、ある人間の正義感を理解することでもあるのでしょう。

ぜひ、『これからの正義の話をしよう』を哲学・教養、『進撃の巨人』をエンタメと狭く捉えずに、もっと大きな視点を持って楽しんでみてください。

以上、「マイケル・サンデル『これからの正義の話をしよう』を『進撃の巨人』で解説する」でした。

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おまけ


白熱教室の方がディスカッション主体で読みやすいかも。

もはや日本が世界に誇るコンテンツになりました。現代の教養!

この2つの作品を読んで、白洲次郎はエレン・イェーガーであり、白洲次郎のプリンシパルとは「自由の尊重」だったのではないかと思うようになりました。

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