こんにちは、taikiです。
突然ですが、「SNSで鋭い一言で物事の本質をズバッとえぐるバズったツイート」を見たことがある方、たくさんいらっしゃるでしょう。
「何度も失敗を繰り返しながら掴み取ったナンパの成功体験を普遍的な法則に昇華させて高尚な学問のように語っているネット芸人」を見たことがある方、たくさんいらっしゃるでしょう。
これらを生み出す源泉は抽象化力です。
抽象化力が高いと「物事の本質だけをうまく伝える」ことができます。
ある事象から抽象化を行って物事の本質を解釈できるようになると応用力が高まり「一を聞いて十を知る」ようになれますし、物事の本質を人にわかりやすく伝えることができると「本質を理解している賢い人」と見られるようにもなるでしょう。
コンサルタントは抽象化して本質を抽出することは基本動作のように求められますが、できるようになるまではトレーニングが必要です。
今回は、「抽象化」×「漫画・小説」という切り口で抽象化力を高めるトレーニングについて取り上げます。
漫画や小説をより一段掘り下げて楽しめるようになりますので、ぜひ抽象化を意識してみてください。
HUNTER×HUNTERで学ぶ抽象化の事例
抽象化と具体化ってなんでしょうかね。
「抽象化は概念、具体化は個別の事例」となくわかるけど、なんだか小難しい。
こういう時は漫画の力を借りたほうがストレートに理解できますので、最強のロジカルコンテンツであるHUNTER×HUNTERの力を借りましょう。
ストーリーを知らない・忘れた人のために
HUNTER×HUNTERを読んだことがない人、読んだけどもう忘れちゃった人向けに概要を共有しておきます。
ストーリー概要
ゴンとキルアは、オークションに出品される「G.I」というゲームを求めてヨークシンシティにやってきました。「G.I」はとっても高価で落札するにはお金が足りません。
ゴンとキルアは露店で安値で出品されているお宝を転売して賞金稼ぎ試みました。そこで知り合ったゼパイルに木造蔵にまつわる話を聞きました。
また、ゴンとキルアは幻影旅団という盗賊団に懸賞金をかけられていることを知り、懸賞金目当てで幻影旅団の行方を追います。
しかし、尾行に気付いた幻影旅団にゴンとキルアは捕まってしまいました。
ゴンとキルアは無事に幻影旅団から逃げて、目当てである「G.I」を入手できるのでしょうか。
隠し金庫「木造蔵」の攻略
HUNTER×HUNTERのヨークシンシティ編で「木造蔵」の話が出てきます。
木造蔵(きづくりぐら)とは
300年前に金持ちの間で流行した一種の隠し金庫。
木の箱に財宝を入れるのだが、中には持ち主がその事を忘れてしまい一度も開けられずに数百年経ったものも多い。
たいていの木造蔵には総額で一億円以上の財宝が入っている。そのため掘り出し物としては最も高額な値が付く一方、偽物を作って儲けようとする人間が後を絶たず色々な殺し技がある。
↑いろんなインチキ技があります。
この木造蔵で偽物を造る有名な技術に接合点を一度剥がしてもそれっぽく偽装する「ヤキヅケ」という手法があります。
凄く流行った偽装技術の為に、鑑定者は接合点ばかりに目が向かうようになります。
そこで、盲点を突いた「ヨコヌキ」という手法があみだされました。
疑心暗鬼になって注意深く検査される接合点ではない所から中身を抜き取るという大胆な手法ですね。
ゴンとキルアは、ヨークシンシティで転売で儲けるためにこんな知識を学びました。
抽象化して別の事例に応用
ヨークシンシティでの儲け話のあとに、ゴンとキルアは幻影旅団のメンバーに捕まってしまい、凄腕の念能力者「信長」の前に部屋に監禁されてしまいます。
出入口が1つしかない部屋で扉の前にいる凄腕の能力者からどうやって逃げようか必死に考えました。
ゴンが木造蔵で学んだ「ヨコヌキ」の概念を抽象化した上で、他の事例に適応させます。
そうです。出入口から出ないで「ヨコヌキ」のように壁をぶち抜けばいいのです。
出入口以外から抜くという概念を見事に自分の置かれている状況に置き換えて、機転を利かせてピンチを切り抜けました。
抽象化できなかったらこの機転も利かずに門番の信長と真向勝負になっていたことでしょう。
これこそ具体的な事象を抽象化して掴んだ本質を他の事例に応用させて再び具体化したと言えるのではないでしょうか。
抽象化とは何なのか
ゴンとキルアの行った抽象化を掘り下げて抽象化の核心に迫ってみましょう。
抽象化とは本質だけを抜き取ること
ゴンとキルアは木造蔵におけるヨコヌキのアイデアを「みんなが着目しているところからあえてハズして裏をかく」ことに抽象化しました。
その上で、自分たちが置かれている状況にあてはめて、「壁を蹴りぬいて逃げる」と応用を効かせました。
具体的な事例を抽象化して、再び具体化に落とすという図解したような思考経路です。
ここで大事なのが抽象化です。
抽象化しないで具体から具体にはいけません。
木造蔵の話を抽象化しないと木造蔵でしか使えない話になってしまいます。
抽象化して、本質を抜き出したからこその応用が効いた行動でした。
戦略的思考とは具体→抽象→具体
まったく同じことがサラッと名著『企業参謀』にも書いてあります。
ある事象が起きた際に、直接の対策を考えるのではなく、一度抽象化して本質を捉えてから具体的な施策を実施しないと本当の解決にならないよと大前研一御大が40年以上も前に言っています。
抽象化で楽しむコンテンツ
「抽象化力が高いと仕事にとっても役に立つ」ことは、いまさら私が熱心に語らなくても十分なぐらい多くの方が語っていらっしゃいます。あえて違う切り口で考えてみましょう。
抽象化力があると小説も今以上に楽しむことができます。
今回は、題材としてとりあげる小説はこちら。
紹介文:
ユミは学園星ユングに暮らす普通の女の子。女性はこの時代、国を守るために子供を産むことを使命づけられている。ただし妊娠には、地球に暮らしている男たちを文字通り「食べる」ことが求められていた。
アマゾンより引用
この小説をとりあげる理由は、内容が面白かったのはもちろん、俺の抽象化結果を作者自身に見てもらったからです(笑)
あらすじ:セックス後に女性が男性を食べるカマキリみたいな話
ストーリーがわかっていないとさすがに抽象化して語ることができませんので、最初にあらすじから追っていきましょう。
ここからはネタバレありますので、先に小説が読みたい方はご注意ください。
ストーリーの前提をザックリと説明するとポイントは3つ。
- 女性が進化して肉体的に強くなった一方で、男性は普通の人間のまま
- 女性の使命は国を守ることと子供を生むこと
- 進化した女性はセックスの後に男性を食べないと妊娠しない
まとめるとこんな感じです。
その上で、ストーリーの舞台は、士官学校の「学園星ユング」と「地球」です。
主人公のユミは、学校の授業の”狩り”で地球に住むエイジに出会い、恋をしてしまいます。
登場人物紹介
ユミ(主人公)
男を食べて子供を生むのが権利であり義務である世界観とは異なり、「一人ぐらい子供を産まない女がいてもよくない?」と思っている。
狩りに行った際に出会ったエイジに恋をして、ずっと側にいたいと思うが、同時に食べたいと思うようになる。ヒトミ
子供を生むことが偉いという価値観に従って生きるが、そこに疑問を持ったユミのことが羨ましいと思うようになる。マミ
「子供をたくさん生んで、名誉女性になって死ぬまでダラダラ楽しく暮らし、いろんな人に『凄いよね』と祝福されたい」と考えていて、既存の価値観に則って生きている。それ故、ユミのように既存の価値観から反れた価値観は認めたくない。
ストーリーの結末
マミがエイジを食べようとしている場面に遭遇し、言い合いになり、ユミはマミを殺す。その後、ユミはエイジとセックスをしてエイジを食べる。エイジとのセックスを通じて、目の前の獲物を食べることの背景にある生命の大きな流れを理解し、生命を繋いでいくことを受け入れる。
ユミはエイジの子供を身ごもり、学園星ユングには戻らずに地球で暮すことにした。
俺の抽象化
舞台となる学園星「ユング」ですが、心理学者のユングから来ているのでしょう。
カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung、1875年7月26日 – 1961年6月6日)
スイスの精神科医・心理学者。ブロイラーに師事し深層心理について研究、分析心理学(ユング心理学)を創始した。出典:Wikipedia
ユングといえば、有名なのが「集合的無意識」です。
集合的無意識
心理学者ユングが提唱した人間の無意識の深層に存在する、個人の経験を越えた先天的な構造領域。「生まれつきみんなが持っている共通の潜在記憶」
出所:SPIBRE、Wikipediaを元に作成
また、最後の方に主人公のユミがこんなことを考えます。
何千何万何億の途方もない数の女たちが、同じくこの螺旋に身を貫かれて、遠い宇宙の彼方まで、永遠に連なっているのだった。
出所:小野 美由紀 ピュア
ユミがセックスして食べるという行為よりもその背景にある生命をつなぐというもっと大きなものに目覚めました。それは生物が持っている共通の潜在意識であって、ユングの集合的無意識のことのように思われます。
「学園星ユング」と「最後のユミの気付き」を抽象化すると「ユングの集合的無意識」と解釈しました。
具体化して言い換えると「目の前のセックスを目的に生きるんじゃなくて生命の営みのようなもっと大きな背景を理解しなさい」ということでしょうか。
☆☆☆
また、完全に俺目線の解釈になってしまうのですが、主人公が所属する組織(≒士官学校)と所属する登場人物達は各人のストーリーの中での発言を聞いているとこんなメタファーが込められているのかなぁと感じました。
登場人物のメタファー(俺解釈)
ヒトミ:サラリーマン的なルールに従って潰れちゃう人
マミ:サラリーマン的なルールの中で勝ち残る人
ユミ(主人公):ルールに疑問を感じて外れた人
また、作者は大学を出たけどいわゆる大手の企業に勤めずに紆余曲折を経て文筆家になりました。つまり、ルールから外れた生き方を選んだと解釈すると主人公のユミは作者自身と考えることができます。
「登場人物のキャラ」と「作者の経歴」という具体的な事象を抽象化して「サラリーマンとフリーランスの対比」と解釈しました。
☆☆☆
抽象化した「ユングの集合的無意識」と「サラリーマンとフリーランスの対比」を合わせてさらに抽象化すると
「目先のことにとらわれずに物事を大きく俯瞰して捉えて、自由に生きろ」
という作者がこの作品を通じて伝えたかったメッセージになるのではないでしょうか。
作者本人からいただいたコメント
私の抽象化に対して作者の小野美由紀さんから直接コメント頂きました。
まぁ、私が勝手に解釈した内容が作者と当然一致する訳がない(笑)
とはいえ、「言われてみればそうかも」ぐらいにはあたるわけです。
作者の考えをバシッと当てるのが目的ではなく、「こんな風に考えて書いたのかなぁ」と想像して楽しんだり、「この物語は現実世界の何を映し出しているんだろう」と考えたりすると単純にストーリーを追いかけるよりも深い部分まで楽しめますよね。
運がいいと作者本人に届いちゃったりしますから(笑)。
(つないでくれた池田さん、ありがとうございました。)
余談ですが、このやり取りの後に作者のインタビュー記事を読みました。
・今の女性たちにはルービックキューブの六面全部を揃える、みたいなしんどさが求められている
・『人魚姫』は女を知らん男が考えた都合のいい話
・女の底力を肯定したい
みたいな話してます。https://t.co/KVI6JZMZR1
— 小野美由紀 (@Miyki_Ono) April 13, 2020
私と見えている世界が全く異なるようで、私には女性目線なんてものは1ミリもなかったようです。
その目線の違いも含めて個性であって、正解不正解なんてものはないのである(開き直った)!
まとめ:抽象化力こそ現代人が身につけるべき能力だ
具体的な何かを抽象化して、本質を抜き出して、再度具体化するといった能力は人間固有のものです。
これからの時代は具体と抽象(上下)を行き来して、隣接する世界に拡張(左右)しながら、経緯理解と未来予測(前後)をぐるぐると回りながら思考してこそ、AI時代に必要とされる人間になるのでしょう(くまちゃんのネタ借りた)。
その第一歩として、抽象化力をぜひ高めましょう。
トレーニング素材は身の回りに無限にあります。一番身近な好きな漫画や小説で試してみると良いトレーニングになると同時に、より作品の深淵に入り込むことができますよ。
以上「仕事ができるようになるだけでなくマンガや小説も面白くなる抽象化力の魔力」でした。
参考文献
抽象化に関しては、この3つの書籍を参考にしました。どの本も違う角度から同じことを説明しています。
激務の心得では何度も紹介している企業参謀です。本の中で現象の抽象化から具体化プロセスを戦略的思考として語っています。
この本は企業参謀での思考プロセスをより詳細にわかりやすく、詳しく解説してくれています。必読。
メモという身近な切り口から入りつつも、内容は抽象化することのメリットを述べています。本の中でも『「具体⇔抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問』への言及もあります。
ロジカルシンキングから抽象化力まで賢くなる要素しか入っていないHUNTER×HUNTERがもっとも読むべき本であることは言うまでもありません。
合わせて読んでほしい
抽象的な思考を通じて引き出したメッセージを資料に落とし込む必要が出てきます。具現化する力もあわせて身につけましょう。
大学卒業後、ファンド・コンサルで10年以上働いて独立しました。今は、個人でコンサルやりながらニッチなメディアの運営を行っております。詳しいプロフィールはこちら。
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