コンサル・投資銀行からの王道転職の一つにPEファンドという選択肢があります。
著名なコンサルファームにいらっしゃる方は、一度は脳裏によぎったことがあるでしょう。
PEファンドもコンサルもアップorアウトのカルチャーが強く、サラリーマン的な人には向かないプロフェッショナルファームです。
しかし「コンサル・投資銀行」と「PEファンド」は、「フィー商売」と「投資業」というまったく異なるビジネスモデルであり、求められるスキルも大きく異なります。
とは言え、埋められない程のギャップがあるわけではありません。
今回は、PEファンドの業務プロセスを軸に、コンサルカルチャーとのギャップという視点で考えてみましょう。
PEファンド業務からみるコンサルが転職後に苦戦するスキル
ファンドの業務は大きく分けて4つ(ファンドレイズも入れると5つ)あります。
- Ph0: (ファンドレイズ)
- Ph1: 案件のソーシング
- Ph2: 投資検討から投資実行まで
- Ph3: 投資実行後
- Ph4: EXIT
皆さんが転職するPEファンドは、既に運用しているファンドでしょうから今回の議論からファンドレイズはハズシておきます。
各フェーズごとにスキルギャプを見ていきましょう。
Ph1 案件のソーシング:法人営業
コンサルも投資銀行もPEファンドも案件を見つけてくることから仕事は始まります。
特にコンサルだと営業はパートナーの仕事であり、PEファンドでもその部分は大きくは変わりません。
しかし、コンサル営業は大企業のリピートを取ること大きな部分を占めるのに対して、PEファンドの営業にはリピートの概念があません。コンサルが農耕型とすればPEファンドは狩猟型です。常に新しい案件を追う必要があります。
そのような狩猟型の営業が必要な場合においては、若手のアソシエイトならまだしもミドル以上の方は積極的に営業することを求められるでしょう。
M&Aの仲介業者や金融機関はもちろん必要ですが、全く面識のない事業会社に直接問い合わせをするいわゆる法人営業も必要になります。
最近では、一部のインフルエンサーと呼ばれる方々には「電話は失礼!」とか「年収によって1秒の重みは違うことを理解しろ」と忌み嫌われていますが、法人営業の場合は圧倒的に電話です。銀行が窓口を減らして自動化に取り組もうとしても法人営業部は絶対に縮小しません。
電話に出てくれないなんてことはないので恐れずに電話をかけましょう。相手もまともな企業であればまともな対応をしてくれます。PEファンドの皆様が連絡する先はだいたい経営企画であり、問い合わせ対応には慣れています。
コンサルでインタビューをする際のコールドコールに比べたら全然楽勝です。
まともな提案(←コレ重要)をすれば耳を傾けてくれますし、しっかりと会って提案に対して真摯に耳を傾けてくれます。
PEファンドのような狩猟的なビジネスにおいては、一本の電話から案件を切り開くぐらいの厚かましさは必要不可欠です。そもそもPEファンドなんてかっこよく言ってますが、服装と言葉遣いが綺麗なナニワ金融道ということを忘れてはいけません。
電話以外の法人営業やまともな提案が何なのかはまた別の機会にやりましょう。
Ph2 投資検討から投資実行まで:財務・ファイナンス
投資候補の案件が見つかったらDue Deligence(以下DD)に入ります。DDではビジネスを見て、財務を見て、事業計画を作り込んで買収価格を絞り込んでいきます。いわゆる激務タクシー帰りのお祭り状態になります。
コンサル出身の方々は、ビジネスを見る部分では違和感なく馴染んでいくことでしょう。むしろ、もっとも期待される部分です。
逆に苦手なのは、どうやって会社を買うかといったストラクチャリングの部分でしょう。
SPCを用意したり、会社分割をしたり、配当を使って現金を吸い上げたり、SPCと対象会社を合併させたりと未知の領域が待ち構えています。会社法の知識や税務やのれんにまつわる知識が求められます。慣れないうちは苦戦します。残念なことにこのあたりは教科書という教科書がありません。自分が担当した案件の中で行われたストラクチャーをまずは理解してそこから知見を少しずつ広げていきましょう。毎回やり方が異なるので、同じチームの先輩に学びながら出来るようにしてください。最終的には、弁護士や税理士といった専門家の力を借りながら作り込んでいきます。
さらにストラクチャーを固めつつ、CFを固める必要が出てきます。
コンサル時代はPLの売上から営業利益あたりまでしか馴染みがなかったでしょうが、きっちりと運転資金と借入金の返済や設備投資を含めたCFを作り込むことが求められます。PL/BS/CFの三表連動の財務モデルを自分で組めるようになってください。これをキッチリこなせるようにならないとPEファンド(ウー)マンとしては一人前と言われません。これが出来ないと生意気で冷たい投資銀行出身者からはプロファーム特有の使えない奴のレッテルが貼られます。
コンサルってこんなもん?
更にコンサル業界の評価すら下げてしまいます。偉大な先輩方が築き上げてきたコンサル幻想をあなたの不勉強で潰してはいけません。財務なんてやれば絶対に出来るようになるので、試練と思って習得してください。
他にも銀行対応や契約交渉といった業務もありますが、まずはCFを作れるようになりましょう。CFが自分で作れて本質の部分から理解出来ないと銀行交渉や契約交渉は出来ません。
追記:PEにおける金融出身者からみたコンサル出身者の見え方です。
PEではつい目に見えたハードスキルがある(私含む)IBD出身者がイキりがちですが、MBB出身の方と一緒にPMIをやると、ファシリテーション(プレゼン、資料面いずれも)の巧さには目を見張ります。少しでもその域に近付きたいものです。
— アウル橘 (@mmzk222) January 24, 2020
Ph3 投資実行後:人間力
過酷な投資審査を乗り越えてディールが成立して、無事に払込が済んでも、PEファンドのビジネスは終わりません。むしろ始まりです。
投資した企業の経営陣や現場のトップの方々とのやり取りが発生します。経営陣と株主がいがみ合っていては事業計画の達成はありえませんので、上手に経営陣と株主の関係を築くことが必要不可欠です。
「私が会社のオーナーのファンド様である!!」と勘違いしないようにしてください。
偉そうにするは論外ですし、そのように見下していることは相手に伝わります。投資先の経営陣に可愛がられて(≠迎合)、情報をもらえるような関係を気づいてください。人間音痴・コミュ障はダメゼッタイです。コンサルは多少生意気でコミュ障でも地頭が良ければマネージャーぐらいまでならなんとかなりましたが、PEファンドでは無理です。
要はダークサイドスキルを磨いてください。
Ph4 EXIT:創造力
期限のあるPEファンドの宿命上、どこかのタイミングで会社を誰かに譲らなくてはいけません。同業他社への売却は選択肢にはありますが、「なるほど!!あの企業がファンドから買収して新規参入か、、、よく思いついたな」的な見事なEXITをするファンドがあります。
投資先企業のビジネスに素人の担当者がいきなり経営陣が食いつくようなアイデアを出せるわけ無いと思いがちですが、その業界にドップリと使っていないからこそ出せるアイデアというものも確実にあります。
スティーブジョブスの名言であるConecting dotはM&Aの世界にも通じる話です。
いろんなことに興味関心を持ってあの企業とあの企業をくっつけたら面白いことが出来るかなと常に思考実験を日々続けてください。それがいずれEXITの際に創造力となって思わぬ結果を呼び込むことになります。
先入観なしに動けることの強みを最大限に活かし、創造力を発揮しましょう。
コンサル出身者が感じるPEファンドの違和感
ロジカルシンキングはコンサルほど得意じゃない
PEファンドで働く人達にはコンサル出身者が一定数いる一方で、メガバンクや投資銀行といった金融機関出身者や会計士出身者も多くいます。
彼らも新卒からたいへん忙しい日々を送って幾度の修羅場をくぐり抜けてきた戦士たちなのはご存知のとおりです。
世界は違えど精神と時の部屋で修行をしてきた者同士へのリスペクトお互い持っています。
そんな彼らとはカルチャー的にも溶け込みやすいのですが、バックグラウンドの違いは感じずにはいられません。
その具体例がロジカルシンキングです。
議論の仕方や論理展開がコンサル出身者から見ると若干甘いなぁと映ることがあります。絶対にあります。
ただコンサルと違ってロジカルシンキングで飯を食うわけではないので、そんな時はコンサル特有のWhy?連発による可愛がりではなく、優しく対応してあげましょう。
PEファンドというのは多分野のプロフェッショナルが集まって一つのことに向かって仕事をするプロジェクト型の組織です。
財務の部分では反対のことが起きているので、多少ロジックが甘くても見下さずに「コンサル的に考えたら新卒1年目か、しかたない。」程度に暖かくアドバイスしましょう。
資料はコンサルほど綺麗じゃない
金融機関・投資銀行の出身者や公認会計士の人達も提案書やプレゼン資料を作成します。
そこでコンサル出身者からしたら目を覆いたくなるような資料を目にすることもあるでしょう。
資料単品で戦う世界はコンサルのほうが圧倒的に上です。
ここでコンサル時代のクセが抜けないと資料を人が作った資料に修正をいれて真っ赤に炎上させたくなるかもしれません。
PEファンドは、レポートを納品してフィーをもらうビジネスではありません。
どんなに綺麗な提案書を作っても相手に刺さらなかったら意味がないですし、投資実行まで行けない限り綺麗な資料は無価値です。
あまり細かい点には拘らず、本質的に大事なことは何かを見失わずに対応しましょう。もちろん、紙の資料をキレイにわかりやすく作れるに越したことはありません。
自分のわかりやすい資料をチームメンバーが見て自然と真似をして勝手にみんなのレベルがあがってくるようにすることが理想的です。
で、結局PEファンドに求められる人材ってどんな人?
コンサル出身者目線のPEファンドの業務を見てきましたが、ここまで読んで頂けるような方は、「で、実際にどんな人がPEファンドに求められているの?」というのが気になってきた頃でしょう。
ベースの部分で高いスキルがあることは前提として、PEファンドで求められる人材の定性的な特徴は2つあると考えています。
受け身の人はダメ。仕事を創ることができる人が求められる
PEファンドの仕事は、決められたことや与えられた仕事を卒なくこなす仕事ではありません。
もちろん、投資時のDDにおけるアソシエイトワークとしてリサーチや財務モデルを作るといった型のある仕事を卒なくこなすことは当然求められます。
しかし、その手の仕事をキッチリこなせる人がファンドに向いているかと言ったらそれだけでは不十分です。
極論するとビジネスDDも財務モデリングも外注可能ですし、PEファンド内でそれを強みにされても中長期的には厳しくなります。
PEファンドの経営陣からすると器用な人ではなく、自発的に動いて仕事を創造できるような人、もっと具体的に言うと自ら投資案件を創り出せるような人の方が採用したいはずです。

↑指示待ち人間の器用な兵隊は好まれません
また、こちらのインタビューでも語られているように教科書的な対応をしちゃう人も受け身な人と捉えられてしまうでしょう。
具体的には、採用面接でこんなことを言っちゃうような人です。
経営戦略の立案だけでなく、実行まで深くコミットして関わりたい
バイサイドで、M&Aのエグゼキューション以外も含めて企業価値向上に携わりたい
このようにどこかに書いてあるフワッとしたことを言う時点で、応用が効かないし、仕事を自分から生み出すような人に思えないとなってしまいます。
これまでのコンサル業務を通じて、○○業界に従事してきました。この業界では○○な動きがあり、合従連衡の流れがあります。○○あたりに差別化要素があり、それがあると業界再編の主要プレイヤーになることが出来ます。
私は、PEファンドの立場でこの仮説をもって業界再編をやってみたいです。
↑こんな感じで過去の業務に対してPE業界視点でストーリーを語ることができると創造力を感じてもらうことができそうな気がしませんか。
PEファンドの人からしたら、フワッとした「やってみたい!」を聞かされるよりも、具体的な「こんなことをやってみたい!」の方が嬉しいでしょう。
「こいつ、スキルがあるな」と思わせるよりも「こいつ、ディールを作ってきそうだな」と思わせてこそ、道は開けます。
人に好かれて役職関係なく懐に入り込める人
一言でいうとPh3のところで説明した人間力です。
PEファンドの仕事は投資先企業の役員会に参加したり、現場の人とコミュニケーションを頻繁にとったりと思っている以上に人間味にあふれています。
投資先企業からしたら、得体の知れないPEファンドという親会社は不気味な存在です。
そこでエリート風を吹かせて上から目線で接しようものなら投資先企業とPEファンドの溝は深まります。
愛想もユーモアもなく、正論だけを冷たく言うような人では、投資先企業に働きかけて組織を変革したり事業計画をブーストするような触媒的な存在にはなれません。
社長でも現場の部長でも末端の営業パーソンであっても懐に入り込んで距離感を詰めることができるような人間臭いキャラクターが必要不可欠です。
高学歴のロジカルバカ丸出しでは使い物になりませんので、路上でナンパでもしてコミュ力と懐に入り込む力を磨いてください。
PEファンドに転職活動する前にやること
少しでもPEファンドへの転職に興味を持ったら、情報を集めましょう。
幸いなことにコンサルからPEファンドであれば多くの先輩方が道を切り開いていることもあり、比較的情報は集めやすいです。
そうなってくると多面的な情報からどのあたりに真実があるのかを見極める方が重要になってきます。
コンサルのヒアリング重視のプロジェクトっぽいなと思った方、、、正解です!
PEファンドのプロジェクトを経験したコンサル仲間に話を聞こう
まずは身内からです。
同僚の中でPEファンドのプロジェクトのビジネスDDを経験した人に話を聞いてみましょう。
ファンドは、「金払いがいい」、「指示が細かい」、「コンサルを使い慣れているからものすごく疲れる」とかいろんな意見が聞こえて来るでしょう。
PEファンドも会社が違えばカラーや思想も異なります。
PEファンド全体の事や各々のカルチャー等とれる情報は集めましょう。
PEファンドに転職した先輩の話を聞こう
実際に、PEファンドに転職した先輩にも話を聞きましょう。
できれば、ジュニア系とシニア系と両方の話を聞くことをおすすめします。
PEファンドによっては、若いアソシエイトが奴隷のようにDDをこなす場合もあれば、若いアソシエイトも積極的にソーシングに駆り出される場合もあります。
転職先候補のファンドに知り合いがいるのであれば必ず聞いておきましょう。
PEファンド周辺の業界に行った先輩の話を聞こう
PEファンド本体でなくても、M&Aアドバイザーや仲介業者、FASや弁護士といったDD周辺で活躍する方も比較的コンサル業界の周辺にいると思います。
接触可能であれば、このあたりのPEファンド周辺で活躍する人達からも情報をもらいましょう。
DD業者へのあたり方でおおよそPEファンドのカルチャーは見えてくると思います。
転職エージェントから話を聞こう
PEファンドに強そうな転職エージェントからも情報をもらいましょう。
PEファンドをしっかりとカバー出来ているエージェントを見つけることが出来れば、それなりに情報はもらえます。
実際にPEファンドの現場で働いている人の生の声ではありませんが、ファンドごとのヨコ比較の視点は彼らならではです。
PEファンドに特化した転職エージェントの使い方についてはこちらの記事にまとめてありますので、興味ある方はこちらも合わせて参考にしてみてください。
まとめ:PEファンドの真実は自分で考えて結論を出して
コンサルとPEファンドの両社を経験した私なりにギャップについて書かせて頂きましたが、他の人に聞いたらまた違った意見が拾えることでしょう。
コンサルのプロジェクトと同じでN=1のヒアリングで示唆を導き出すようでは、信憑性にかけてしまいます。先輩や取引先や転職エージェントを通じて自分なりの真実を掴んでください。
人気があるけど求人が少ない業界ではありますので、少しでもPEファンドへの転職に興味がある方は実際に行動に移して早めに情報を集めておきましょう。
以上「コンサルからPEファンドへ転職したい人必見!スキルギャップを理解しよう」でした。
あわせて読んでほしい
PEファンドに興味を持った方は、転職エージェントからPEファンドに関する具体的な情報を入手しましょう。その際のアプローチ方法についてもまとめていますので合わせて参考にしてみてください。
大学卒業後、ファンド・コンサルで10年以上働いて独立しました。今は、個人でコンサルやりながらニッチなメディアの運営を行っております。詳しいプロフィールはこちら。
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