こんにちは、taikiです。
フェルミ推定してますか?
激務の心得でずーーっと前から「フェルミ推定」のネタが抜けているよなぁと思いつつ、放置していました。
その心の片隅の引っかかりを強く刺激したのがこちら。
以前紹介した『変える技術、考える技術』の著者でもあるタカマツさんの2作目です。
今回も読みやすく、わかりやすい仕上がりになっています。こういう本を学生の時に読みたかった。。。
せっかくの機会ですので、『フェルミ推定の技術』をベースに、私なりの切り口(≒『HUNTER×HUNTER』)で解説できればと思います。
『フェルミ推定の技術』を大雑把に捉える
まずは目次で全体像を捉える
なにはともあれ、目次を読みましょう。
私は8章の構成を「導入」「本編」「応用編」と解釈しました。
そして、3つのパートの内容は「フェルミ推定とは考え方」「具体的な考え方」「他分野への領域展開」と捉えました。
重要度としては、全体を100としたらこんな感じ。
- 導入:50
- 本編:40
- 応用編:10
5章まで理解しちゃえばあとは流しても著者の意図は汲み取れるハズ。
フェルミ推定とは考え方である
フェルミ推定の具体的な因数分解のやり方、値の出し方をこの記事で改めて説明してもあまり意味がないので、『フェルミ推定の技術』を(暗記するまで)読み込んで各自勉強してください。
ここでは「フェルミ推定とは何者か」について抑えておきましょう。
『フェルミ推定の技術』の中の言葉を借りるとこのように表現されます。
フェルミ推定:
=①未知の数字を、②常識・知識に基づいて、③ロジックで、④計算すること
要は「今わかっていることをベースに考えるとこうなるんじゃねぇ?あってるかどうかはしらんけど」と予測をたてることでしょう。
そして、予測した数値があってる・あってないは重要ではなく、そこに至るまでにどうやって考えたのか、そこに「セクシーさ」があるかどうかが大事だと本の中のいろんな所で書かれています。
「セクシーさ」に関しては、『フェルミ推定の技術』の中にも書いてありますが、本記事では私が『HUNTER×HUNTER』の力を借りて私なりに解釈した「セクシーさ」を紹介できればと思います。
それでは、お待ちかね、『HUNTER×HUNTER』の出番です。
『HUNTER×HUNTER』に登場するフェルミ推定:基礎編
今回はキメラアント編です。
『HUNTER×HUNTER』を知らない人のために、基本事項を解説しておきましょう。
念能力とは
体から溢れ出す生命エネルギー「オーラ」を自在に使いこなす力のこと。
あらゆる生物がオーラを持っているが、それを使いこなせる念能力者はごくわずかに限られる。
ドラゴンボールで言えば「気」、ジョジョで言えば「スタンド能力」、呪術廻戦で言えば「呪力」みたいなものでしょうか。
↑オーラを操っている主人公のゴン
キメラアントとは
第一級隔離指定種に認定されている昆虫。非常に貪欲で凶暴な蟻。
女王蟻は摂食交配という特殊な産卵形態をとり、他生物を食べることでその生物の特徴を次世代に反映させることができる。
要は食べたものの遺伝子を受け継いで子孫を残すことが出来るわけです。キメラアントが人間を食べたら蟻と人間のハーフが出来る的な。
その蟻と人間のハーフがこちら。
この最強生物である蟻と人間のハーフを王とするキメラアント軍団を相手に念能力を使いこなすハンター達が束になって闘うというストーリーです。
ちなみにキメラアント軍団も念能力者です。
フェルミ推定シーン
キメラアントは東ゴルトーという人口500万人の独裁国家(≒北朝鮮がモデルと思われる)を乗っ取りました。
目的は500万人の中から念能力者を選別し、キメラアントの軍隊を作るためです。
↑どこかで見たことあるような風貌…
念能力者が殴ると念能力の素質を持った人間は目覚めます。素質が無い人間は死にます。
この「選別」は10日間でやりきる予定です。
これに対して、ハンター軍団の作戦決行は10日後。
これでは500万人は見殺しです。ここでハンター軍団の中で議論がおこります。
ナックルとシュートの会話
ナックル(リーゼントの方)はこの事実に対して、死亡者数を1日あたり49.5万人と試算し、事の深刻さと自分無力さに憤りを感じます。
これはフェルミ推定と呼べるレベルでないほど簡単な試算です。ここで「フェルミ推定使ってる!!ドヤっ!!」って言いたいわけじゃないですからね。念の為。
ナックルは「500万人を見殺しにするのは嫌だ。」と文句を言って不満をシュートにぶつけました。
冷静なシュートは「代替案も出さないのに文句だけ言うな」と切り替えしました。
議論において一番やっちゃいけないやつです。
参考:
ゴンとキルアの会話
ナックルとシュートに対して、ゴン・キルア組は違った議論が展開されます。
ゴンは、一人の選別者が10日間で1万人選別すると仮定したら選別者が500人必要だけど、そもそも選別者自体が500人もいないんじゃないか(≒10日間では無理)と指摘します。
これはフェルミ推定の別アプローチ、被害者側からの被害推定ではなく、加害者側からのリアリティチェックです。
ここで思い出しましょう。
フェルミ推定とは「答えの無いゲーム」であって、絶対的な基準がありません。
フェルミ推定をセクシーにするのは、アプローチを2つ以上考えてからその比較感でより良いものを選ぶことでもあります。
ゴンは2つのアプローチで考えて、本質に迫りました。
そして、ゴンのアプローチがキッカケとなり、キルアが議論を次のフェーズに進めます。
議論が発展して、次の仮説が出てきました。
そして、簡単に選別を出来る仕組みを導入しているから、そこを逆手に取って、選別を遅らせてやろうというキルアからの提案です。
その結果、2人が次にとる行動が決まりました。
500万人の選別イベントに対して、選別者不足という現実を投影し、キルアとゴンの議論に火がつきます。
その結果、2人は納得し、次のアクションが固まりました。
表面的な数値で激昂したナックルと冷静に思考と議論を重ねて次のアクションを導いたゴン・キルアのキャラの違いがよく出ています。
『フェルミ推定の技術』で言えばスポーツジムの話と同じ
本著の中で言えば、第2章の「スポーツジムの1店舗の売上は?」で、「延べ利用者数÷利用頻度」でアプローチしつつ、「施設のキャパ×回転数」からもアプローチする話が近いですね。
「答えの無いゲーム」だからこそ、選択肢の比較感でよりよいモノを選ぶわけです。
そして、そこに4章の田の字の話のように、時間帯と曜日ごとの回転数の違いといった現実を投影していくことで納得感が高まります。
『フェルミ推定の技術』に照らし合わせて考えてみても、ゴンとキルアの議論には「セクシーさ」があったと言えるのではないでしょうか。
『HUNTER×HUNTER』に登場するフェルミ推定:応用編
今度は応用編です。バトルでもフェルミ推定は使えます。
舞台はグリードアイランド編のラスボス、ゲンスルー戦。
対戦相手の能力分析
ゲンスルーは手で触ったものを爆破させる能力を持ちます。
手で触ったものが爆発するのにゲンスルー自身が無傷なことにゴンは疑問をいだきます。
ゲンスルーは爆発の際に、爆発力より大きなオーラを手に集中させて自身を守っていました。
ここからゴンのフェルミ推定が加速し始めます。
対戦相手のオーラ分配をフェルミ推定
ゴンはゲンスルーが両手で爆破させる能力を使ったタイミングで攻撃をあてることを思いつきました。
ゴンはこれまでの経験を踏まえて、ゲンスルーのオーラ分配を右腕45%、左腕45%、全体の防御10%とフェルミ推定します。
それに対して、自分は右腕30%、左腕0%、右足70%とオーラを分配させれば、左腕が吹っ飛び、右腕がかろうじて残る。そして右足で全力で蹴り上げれば一泡吹かすことができると考えました。
その結果、ゴンは右腕と引き換えにゲンスルーの顔面に蹴りを入れることに成功します。
蹴りを受けた後に、ゲンスルーはゴンの思考をトレースして、その狂気に驚きました。
因数分解がシンプルですが、これも立派なフェルミ推定です。
現実の投影(オーラで腕を守れるし、相手も守っている)をしたうえで、因数分解(オーラの分配)をやって、値を求めています。
ゴンのフェルミ推定に「セクシーさ」はあったのか
ここで注意したいのが、分配の値(ゲンスルー:右腕45%、左腕45%、ゴン:右腕30%、左腕0%、右足70%)の正確性はあまり意味がないことです。
重要だったのは「値」ではなく、その裏にある「考え方」でした。
ゴンはここまでに至った考え方や積み上げてきた思考に「セクシーさ」があったため、失敗して両腕を失って生命を落とすリスクを受け入れて、行動に移しました。
↑ゲンスルーも「いかれてやがる」とその「セクシーさ」を認めています。
そして、ゴンがやり遂げた結果(≒値)ではなく、それに至る考え方に我々クライアント(≒読者)は魅せられました。
クライアント(≒読者)を驚かせて納得させるのも結果ではなく、裏にある「考え方」「働き方」なわけです。
『HUNTER×HUNTER』フェルミ推定問題集
ここからは『HUNTER×HUNTER』のストーリーで用いられる話をいくつか紹介しますので、各自でどのようなフェルミ推定が行われているか想像してみてください。
「幅」を持ってフェルミ推定する
キルアに稽古をつける際に、トレーナーであるビスケが戦闘力とは何かについて話している場面があります。
対戦相手の戦闘力を「幅」でみていますね。
強さというのはその日のコンディションや状況によっていくらでも変わりますし、調べることができません。だからこそ、「最低でもこのくらい、最大でもこの程度」を抑えてどのぐらいの勝算があるのかを見積もる必要があります。
結論から言うべき
こちらはゴンの兄貴分であるカイトがめちゃくちゃ強いネフェルピトーに遭遇した場面です。
カイトは相手の強さをフェルミ推定し(思考過程は書いていないけど、きっと何か思考はしているはず)、ゴンとキルアに導かれた結論(ここから離れろ)を最初に伝えました。
ゴンとキルアは「え??そんなに強いの?」と思ったことでしょう。
聞き手であるゴンとキルア(と読者)に論点を持たせました。
この論点設定があったからこそ、その次のシーンが強烈に読者の心にトラウマとして刻まれることになります。
この後に起こった恐ろしいことはぜひ本編を読んでみてください。すごいから。
☆☆☆
他にもフェルミ推定を使っている(と思われる)シーンや『フェルミ推定の技術』に書かれているエッセンスを含んだシーンはたくさんあります。ぜひ探してみてください。
まとめ:フェルミ推定は人生を豊かにする
『フェルミ推定の技術』の第6章で「フェルミ推定はビジネスの至る所で使える最強の思考ツール」と書かれています。
私も同意ですが、これに1つ付け加えるとしたらビジネスだけじゃなく、エンタメを楽しむにあたってもめちゃくちゃ使えるということです。
今回紹介した『HUNTER×HUNTER』のように、漫画でも小説でも映画でも、主人公がふりかかってくる問題を解決するためにフェルミ推定を駆使していることは多々あります。そのフェルミ推定的要素がわかるようになってくると背景にある問いや論点が見えてきて、製作者サイドの想いが見えてくるようになります。
フェルミ推定はビジネスを加速させるし、エンタメをディープに楽しませてくれます。そんなお得感満載なフェルミ推定とは「人生を豊かにする偉大なツール」とも言えるでしょう。
豊かな人生を過ごすためにもフェルミ推定を学んでみませんか?
フェルミ推定に興味を持った方は、ぜひ『フェルミ推定の技術』と『HUNTER×HUNTER』を手にとって見てください。
以上「『HUNTER×HUNTER』に学ぶ『フェルミ推定の技術』」でした。
あわせて読みたい
『フェルミ推定の技術』の著者であるタカマツさんの『変える技術、考える技術』を読んでフェルミ推定に「二項対立」や「ファクトと示唆」の話が加わってくると議論の質がグッとあがります。ぜひ、こちらもあわせて読んで議論の深淵に入り込みましょう。
オマケ
フェルミ推定もロジカルシンキングも学べる最高のエンタメです。まだ読んでない方は全巻大人買いです。絶対に損しません。
タカマツさんの前作『変える技術、考える技術』もあわせて読みましょう。
大学卒業後、ファンド・コンサルで10年以上働いて独立しました。今は、個人でコンサルやりながらニッチなメディアの運営を行っております。詳しいプロフィールはこちら。
コメント
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